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『日本の果物の素晴らしさを、海外に届けたい』

Umai Japan株式会社

代表取締役

杉本稜太

岐阜大学の学生でありながら、日本の農産物の海外輸出に挑戦するUmai Japan株式会社(以下、「Umai Japan」)代表取締役、杉本稜太。「日本の美味しい農産物を世界中の人に届けたい」という思いから、在学中にもかかわらず起業に踏み切った。そんな杉本が今取り組んでいるのは、「岐阜県産の柿を海外に輸出する」というプロジェクトだ。少子高齢化が進み、農業の担い手不足が深刻化する中、高品質な農産物の生産力を維持することが喫緊の課題となっている。海外市場に活路を見出し、日本の農家と海外の消費者を結ぶ架け橋を築こうとする、杉本のチャレンジに迫った。

「負けず嫌いな性格が、起業への最初の一歩でした」

杉本「小学2年生からバレーボールを始めました。学校が終わったらクラブチームでバレーの練習をしていました。中学校もずっとバレー漬けでした。高校は遠征もあり、バレー三昧の日々を送っていました。 」

そう語るのは、若干21歳にして農業ベンチャー企業「Umai Japan」を立ち上げた杉本凌太だ。岐阜大学の起業部で様々なインスパイアを受けながら、独自の視点と感性と行動力で、Umai Japanの事業立ち上げを進めている。

杉本「バレーの強い高校に進もうと選んだのが福井農林高校。バレー三昧の日々を過ごしつつも、スマート農業やSDGsなどには興味を持って、それについて研究するプロジェクトなどにも参加していました。農業高校で学んだことを生かして推薦枠が使える岐阜大学に進みました。

2021年の春、岐阜大学の応用生物科学部に進んだ杉本だったが、まだまだコロナの影響が強く、日々の行動は制約されていた。

杉本「大学に入っても、ほとんどバレーができなかった。元々それで食べていけるとは思っていなかったので、切り替えは意外と早かったです。でもその時に気づいたのは、周りにいる普通科出身の人たちに、勉強ではかなわない。じゃあ自分は何をすればいいのか、と。」

そんな時、友達に誘われて何気なく見学に訪れたのが、岐阜大学の「起業部」だ。

杉本「どんなことをやっているのか最初はよくわからなかったんですが、なんとなく面白そうと思って飛び込んでみたんです。そこで色々な起業家の方の講演などを聞きました。」

あれこれ考えるよりも、まず何かに飛び込んでみる。そしてそこで何か別のものを見つけて、さらにアクションを加速させる。後述する杉本の強みは、創業の経緯にも見て取れる。

杉本「大阪で農業Weekという大きなイベントが開催され、スマート農業の機械が並んでいるのを見て、最初はスマート農業と農家のマッチングをしようと考えました。でも実際に農家にヒアリングなどをしてみると、ニーズがないことに気づきました。 」

スマホ片手になんでも調べられる時代にあっても、新しい何かを生み出すときに必要なのは実際に足を運び、自分の目で見て、自分で感じたことを検証していく地道なプロセスに他ならない。行動に移し、そして検証する速さこそ起業家に求められる資質といえよう。

「自分の強みは若さ、とにかく飛び込める行動力」

杉本「農家の本当の気持ちを知りたいと思い、大学2年の8月から半年ほど、岐阜の西濃エリアにある池田町のトマト農家に自分で直接連絡をとって、アルバイトとして働かせていただきました。スマート農業など最新技術を導入している先進的なハウスでの仕事でした。その農家さんと一緒にシンガポールの市場調査にも行きました。 」

農家の課題を、ヒアリングではなく実体験を通して知ろうと飛び込んだ農家の代表は、自由でフラットな発想の持ち主だった。

杉本「マレーシアに3日間、シンガポールに3日間滞在しましたが、物価が全然違うことに驚きました。シンガポールは経済的に豊かで、日本の百貨店も進出していて、日本への信頼も高いなと感じました。」

現地に行かないとわからないことがある。日本のどんな作物が流通しているのか、競合となる作物の産地はどこなのか。現地のJETROなどにも協力してもらいながら、確かな情報を足で稼いで、積み上げていく。

杉本「現地のスーパーを回って日本の作物の立ち位置を知ろうとしたんです。富裕層が多いのに生鮮品の品質があまり高くなかったし、日本の食べ物、特に果物やトマトなどは少しは売られていて、物流が機能している。これはいけるんじゃないかと。」

日本の高品質な果物を海外に輸出することで、日本の農業の将来に貢献したい。Umai Japanの事業アイディアの骨格は、杉本が一つ一つ自分の体で現場の風圧や手応えを確かめながら作られた。

杉本「柿に目をつけたのは、畑が周りにたくさんある身近な存在でありながら、農地や生産者がどんどん減っていることに気づいたからです。」

現場を知ろうと農家でアルバイトをしていた杉本。岐阜は柿の名産地で、柿の畑は日常に溶け込んでいるのだが、農業に飛び込んだ杉本は、それまで気づかなかった風景の変化に気づくようになっていた。

杉本「柿の木が切られていく光景を見て、もったいなくて、寂しさを感じました。しかし農家さんは、作り手が減って後継者もいないと口を揃えます。」

どうすれば農家を継ぐ人が増えるのか。産業として盛り上がるのか。そう考えた時、杉本の脳裏にシンガポールのスーパーで感じた希望が蘇った。日本の高品質な果物なら、海外の富裕層に向けて高値で売れるのではないか。

杉本「シンガポールでは柿は普通に食べられていて、ほとんどは韓国産です。味は薄めで、大きさは日本のものと同じくらい。見た目はあまりよくなかった。富裕層がいるし、日本産の柿なら高くてもきっと受け入れられると思い、この市場に食い込んでみたいなと思いました。」

かくして、「日本の柿をシンガポールに輸出する」という杉本の挑戦が始まった。

「いいものをちゃんと高値で売るにはどうすればいいのか」

杉本「シンガポールの日系百貨店で日本産の柿を取り扱ってもらおうと掛け合ったんですが、『日本が本社だから、直接の取引はできません。』『取り扱うかどうかはの意思決定は日本の本社なので、そちらに掛け合ってください。』と言われました。」

実際に海外に輸出をしようとしたが、そこで多くの困難に直面した。シンガポールのマーケットに届けたいからといって交渉先がシンガポールだとは限らないというのは、実際に行動してみないとわからない盲点だった。

杉本「他にも、コンスタントにシンガポールに輸出している業者さんのコンテナにあいのりさせてもらって、シンガポールに小さい柿を100パック送り、現地の提携企業に売ってもらいました。でも出荷量が少ないし、中間業者も入るし、ロットも小さいので利益を出すのは簡単ではありません。」

まさしくあの手この手と試して、課題に向き合いながら、どこかに突破口がないかと探すことを繰り返し、一つずつ解決策を見つけていく。

杉本「いいものを海外向けにちゃんと高値で売ろうと思ったら、サプライチェーンを作らないといけないと痛感しています。直接貿易するなら現地法人を作って駐在員を配置しないといけません。でも、現地法人を作る時にサポートしてくれる人も目星がついています。シンガポール国立大学の人とも仲良くなり、もしかしたら協力してもらえるかもしれない。」

愚直に突き進む杉本の姿勢が、着実に仲間を増やし、いつか大きなうねりになる予感がする。

「年間1000万円の出荷を早く達成したい」

杉本:「早く達成したいのは、出荷量を増やすことです。年間1000万円、柿なら20〜30トンを目指しています。海外への輸出量を増やしたいですが、物流体制を整えないと海外は利益が出しにくい。日本国内で量が出せるのはスーパーですが、既存の商品があるから、よほど差別化しないとなかなか食い込めない。」

生鮮品は差別化が難しい商品だ。味や見た目、ブランドなどさまざまな差別化の方法があるが、杉本が目につけたのはサイズや食べ方の違いだ。

杉本「2023年の秋にはクラウドファンディングを実施しました。その時に評判が良かったのは、『皮ごと食べられる小さな柿』です。」

クラウドファンディングでは、岐阜の富有柿をリターンとして多くの応援を得た。なかでも評判が良かったのが、一口サイズで皮ごと食べられる種無しの柿だ。

杉本「実はこの柿は日本では生産量が少なくあまり認知度がありませんが、糖度が20度近くあって、とても甘くて美味しいんです。」

皮ごと食べられると聞くと、シャインマスカットなどが連想されるだろう。新しい食べ方を提案できたら強い差別化要素になる。

杉本「小さい柿は実は品種は渋柿なんですが、渋抜きという二酸化炭素のガスの中に入れて温度をかける処理を2日間行うことで、そのまま食べられるようにしています。9月に収穫してちゃんと温度管理をすれば2月までもちます。柿は取れる季節が限られているので、長期保存できるのはメリットが大きい。今年は畑を借りて、そこにある大きな柿の木を切って、小さな柿が採れる木を接木する計画を立てています。」

生産コストは高まるものの、希少性や品質の高さがはっきりと打ち出せるところに狙いを定め、市場に投入していく。そのためには資金だけでなく、農業、物流、経営やマーケティングなど様々な知識が必要だ。

「一緒に肩を並べて、心中覚悟でやってくれるやばい人」

杉本「岐阜県農業技術センターの部長さんやJAの方、メンターとして関わってくれる先輩ベンチャー企業の経営者さんや、ステーションAiの方々など、協力者には本当に恵まれていると思います。」

愛知県はベンチャー企業育成に積極的に取り組んでいるが、だからといって全てのベンチャー企業が多くの協力者を得られているわけではない。これだけの協力者に恵まれるのは、杉本のひたむきさや行動力によるものだろう。

杉本「クラウドファンディングでは、3軒の柿農家さんに協力してもらって商品調達をし、70人くらいから合計50万円の支援を得られました。自分の挑戦を応援してくれる人がいると実感できて、本当に嬉しかったですね。」

そう語る杉本だが、まだまだ心強い協力者、むしろ共犯者を求めている。

杉本「あとは、一緒に肩を並べてやってくれる、心中覚悟でやってくれるような仲間が欲しいですね。ナンバー2のような、僕とタイプは違うけど奮起してくれる人と組めたらいいなと思っています。」

大学生の時点で、ここまでの行動力を発揮できる人材は稀有だろう。愛知発の農業ベンチャーとして、日本の「うまい」を世界中に発信する今後に期待したい。

杉本稜太 2003年生まれ、福井県出身。

Umai Japan株式会社 代表取締役

株式会社Umai Japan

住所愛知県名古屋市中村区平池町4丁目60-12 グローバルゲート11F
HPhttps://umai-japan.jp

撮影協力:Tripot cafe the PARK Tsurumai

Instagram:https://www.instagram.com/thepark.tripotcafe.tsurumai/

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